HIV感染症と各種合併症:悪性腫瘍
HIV感染症と悪性腫瘍:Over View
編集:東京慈恵会医科大学感染制御部 加藤 哲朗 先生
はじめに HIV感染者には、日和見感染症(OI)だけでなく悪性腫瘍発生の頻度も高い。抗HIV療法(ART)の進歩によりHIV感染症が慢性疾患化し、患者の長期コントロールが良好にできるようになった結果、患者の高齢化も進んできており、悪性腫瘍を発症する症例も増加しつつある。 HIV感染症における悪性腫瘍は、ADMとNADMに分類される。ADMにはカポジ肉腫(KS)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、浸潤性子宮頸癌が、NADMには、肛門癌、ホジキンリンパ腫、原発性肺癌、肝細胞癌、精巣腫瘍、頭頸部癌などが、それぞれ含まれる。 HIV感染症における悪性腫瘍の頻度 11試験のメタアナリシスでは、HIV感染者はHIV非感染者と比べてNADMの頻度が高いことが報告されている。Powlesらの検討でも、NADMの標準化罹病率(SIR)は1.96と報告されており、一般人口と比べてHIV感染者ではNADMの頻度が高いことが示唆されている。HAART時代以前と比較した成績では、NHLとKSの頻度は減少しているものの、NADMの頻度は減少していないと指摘されている。HAARTが確立された後も、頭頸部癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、肺癌、肛門癌などは減少していないのが現状である。 |
症例提示症例1は、51歳・男性。1994年、梅毒を契機にHIV感染症と診断された。ARTが開始され、その後数回、ARTが変更された。2002年から徐々にHIV RNAが増加し、検査の結果、多剤耐性ウイルスと判明。同年8月ART変更のため入院。入院時の胸部X線で異常を指摘された。 臨床検査では、NSE、ProGRPなど、小細胞肺癌(SCLC)のマーカーが高値であった。気管支鏡検査時に生検施行し、SCLCと診断(図2)。 全身検索にて副腎転移も認め、ED-SCLCと診断した。 |
ARTと併用してCDDP+CPT-11による治療を3コース行うも再発。40Gyの全脳照射後にAmrubicin 4コース、さらにCBDCA+VP-16による治療を2コース行ったが、肺癌の診断から14か月に死亡した(図3)。 この間はHIV RNA量は低く維持され、コントロールは良好と考えられた。 |
症例2は、47歳・男性。2008年4月、コンジローマを契機にHIV感染症と診断。CD4陽性リンパ球数は400/μL程度であり、経過観察されていた。2010年1月の健診の際、上部消化管内視鏡で異常を指摘された。身体所見では、両側頸部、両側鼠径部のリンパ節を触知した。内視鏡所見では、胃と十二指腸に隆起性病変が認められた(図4)。 |
病変部の生検により、びまん生大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断した(図5)。 TDF/FTC+RALでART導入し、R-CHOP療法を開始。1コース終了後、内視鏡検査・CTで病変の縮小を確認。また、CD4陽性リンパ球453/μL、HIV-RNA 4.6×101コピー/mL と良好な経過で、大きな副作用なく治療継続中である。 HIV感染症における悪性腫瘍は近年重要な問題となっている。その原因として、疾患の慢性化による患者の高齢化、HIVそのもの、発癌ウイルスの共感染、腫瘍免疫の低下、発癌物質(タバコ)の関与などがある。ADMの一部はARTによって減少傾向にあるが、NADMは、減少傾向は認められていない。HIV感染者の悪性腫瘍のマネージメントは 複雑であり、感染症、腫瘍の両者に精通している必要がある。また、抗腫瘍化学療法を行う際には、抗HIV薬との相互作用に留意すべきである。この問題に関しては、HIV感染症のコントロールはもとより、ウイルス共感染の治療、禁煙、ワクチンなどの他、早期発見プログラムが必要と考えられる。 |
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