HIV感染症と各種合併症:悪性腫瘍
悪性腫瘍
監修:味澤 篤 先生(がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長)
Human immunodeficiency virus(HIV)感染者は、非HIV感染者に比較して悪性腫瘍になりやすい。Acquired immunodeficiency syndrome (AIDS)指標悪性腫瘍であるカポジ肉腫(KS)、非ホジキン悪性リンパ腫(NHL)、浸潤性子宮頸がんが非HIV感染者に比べ多くみられるのは当然として、近年、非AIDS指標悪性腫瘍とされる肛門がん、ホジキンリンパ腫、肝臓がん、肺がん、皮膚がん、咽喉頭がん、白血病などが、HIV感染者に高頻度に見られるようになった。 一方、antiretroviral therapy (ART) の進歩によりHIV感染者の予後は明らかに改善し、日和見感染症やAIDS指標悪性腫瘍であるKS、NHLも減少傾向にある。しかし死因として非AIDS指標悪性腫瘍によるものが増加傾向にあり大きな問題となっている。2009年12月1日の米国保健省(DHHS)の抗HIV療法ガイドラインではCD4陽性リンパ球数が500/μL未満での治療が推奨されるようになった。近い将来には、HIV感染症の診断、即治療の状況がせまっていると思われる。この状況の一因として非AIDS指標悪性腫瘍による死亡の増加が背景にある。HIV感染症を早期に診断し、ARTを行うことによりCD4陽性リンパ球を高く保つことが、非AIDS指標悪性腫瘍の減少と結びつくと考えられている。 HIV感染者に合併した非AIDS指標悪性腫瘍の特徴としては、A)非HIV感染者に比較してより若い年齢で生じ、未分化がんの頻度が高いこと、B)進行性で転移を伴うことが多く予後不良であること、C)再発も多く治療抗性であることが明らかとなっている。また治療上の問題としては、①HIV関連合併症のためにPSが低下していること、②CD4陽性リンパ球数が高度に低下している場合は、術後感染症の増加により手術のリスクが高くなること、③抗HIV薬との薬物相互作用で抗がん剤の毒性が高まり、高度の免疫抑制を起こすことがあること、④特に未治療のHIV感染者では非HIV感染者に比べ、化学療法後の骨髄障害が高度にみられることなどがある。これらはARTによりHIVを十分コントロールできれば非HIV感染者と同様の治療に耐えられ、生存率が改善するとされる。 今後は、HIV診療の中で非AIDS悪性腫瘍合併を常に考慮しておくと同時に、悪性腫瘍の患者さんの中にHIV感染症が潜んでいることを常に念頭に置いておく必要があると思われる。 |
HIV感染症と悪性腫瘍 Over ViewHIV感染症と悪性腫瘍との関連についての文献的考察。2010年11月作成。編集:東京慈恵会医科大学感染制御部 加藤 哲朗 先生 |
文献紹介HIV感染症と悪性腫瘍に関連する文献をご紹介。毎月Update。編集:静岡がんセンター感染症内科 倉井 華子 先生 |
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